小田急電鉄は着替え時間に賃金を支払え

 学生ユニオンは現在、学生駅員アルバイトの待遇改善を目指し、小田急電鉄株式会社(以下、小田急電鉄)と争議中です。これまでに5回にわたって団体交渉を続けており、既にある駅で駅員を増員させるなどの成果を勝ち取っています。過去のブログにこれまでの団体交渉の報告が載っていますので、是非ご参照ください(http://gakuseiunion.seesaa.net/article/471486156.html)。

 さて、学生ユニオンが小田急電鉄と今も交渉中の論点の1つに、着替え時間の賃金未払いがあります。この点について学生ユニオンは、着替え時間も労働時間として扱い、過去の未払い分を全学生駅員に支払ってほしい、という要求を続けています。しかし、小田急電鉄は頑なに学生ユニオンの要求を拒み続けています。今回は、小田急電鉄の主張を紹介し、それに対する学生ユニオンの反論を書きます。

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小田急電鉄の主張―「着替え場所を指定していないから着替え時間は労働時間ではない」

 小田急電鉄は、「三菱重工長崎造船所事件」(最高裁平成12年3月9日)の判決をもとに、着替え時間は労働時間に当たらないと主張しています。
この判例は、労働時間を「労働者が使用者の指揮管理下に置かれている時間」と定義し、着替え時間が労働時間にあたるかについて、「就業を命じられた業務の準備行為等を事業所内において行うことを使用者から義務付けられ、又はこれを余儀なくされたとき」は、使用者の指揮管理下に置かれたものと評価でき、着替え時間は労働時間にあたる、としています。
 小田急電鉄は、この判旨の「準備行為等を事業所内において行うことを使用者から義務付けられ」という部分を取り出し、「着替え場所についての業務指示をしていないため着替え時間を労働時間と認めない」と言っているのです。
  
学生ユニオンの反論

この主張に対する反論を、学生ユニオンは以下の様に考えています。

① 実態的には着替え場所は指定されているようなもの
 
 まず、小田急電鉄は着替え場所について業務指示をしていないと主張していますが、着替え場所が指定されているかどうかは、直接的な指示があったかどうかではなく、学生の着替えの実態から客観的に判断されるべきです。
 小田急電鉄の駅にはロッカーが置かれており、ほとんどすべての学生駅員がそこで着替えをしています。会社側も団体交渉において、「基本的には学生は駅で着替えている」と言っています。バイトに向かう電車の中を小田急電鉄の制服を着て過ごすことや、勤務前後に授業のある学生が大学内を小田急電鉄の制服で歩くことは、心理的抵抗が大きいことを考えると当然のことです。
 このように実態的に学生は駅で着替えざる得ない状況にあることから、黙示的に着替え場所が指定されているといえます。

② 厚生労働省のガイドライン―着替え場所の指定は関係ない!
 
 次に、厚生労働省が出している文書を参照してみると、そもそも着替え場所を指定する業務指示の有無は、着替え時間が労働時間といえるかどうかの判断には関係ないことがわかります。
平成29年1月20日付で出ている「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000187488.pdf)には、着替え時間についての記載もあります。
このガイドラインの3ページ「2 労働時間の考え方」には、次のような時間は労働時間にあたるとして、「使用者の指示により、就業を命じられた業務に必要な準備行為(着用を義務付けられた所定の服装への着替え等)や業務終了後の業務に関連した後始末(清掃等)を事業場内において行った時間」が挙げられています。つまり、制服に着替えることを命じられていれば、その着替え時間は労働時間だと言えるのです。
つまり、小田急電鉄が主張している、「着替え場所について業務指示をしていない」ことは、着替え時間を労働時間と認めない理由にはならないのです。

③ 「三菱重工長崎造船所事件」高裁判決―着替え場所の指定がなくても労働時間
 
 小田急電鉄は、「三菱重工長崎造船所事件」の最高裁判決を引用していますが、その判決の元となっている高裁判決を参照してみても、「着替え時間についての業務指示があったかどうか」は着替え時間を労働時間と認める際の基準とは言えないことがわかります。
 当判決では、①作業服の始業前までの着用が義務付けられていたこと(着用していないと不利益を被る)、②作業服を自宅に持ち帰ることは禁止されていないが、作業服を着て通勤することは心理的な抵抗を生むためそのような社員はごくわずかであり、③安全保護具などは更衣室および控室に保管されており、④労基法上の労働時間を「労働者が労働契約上の労務提供義務の履行として使用者による労務指揮権の行使下に置かれている場合にとどまらず、事実上これと同視することが出来るような状態にある場合にも、これを労基法上の労働時間と見て規制の対象とするのが相当だからである」と捉えれば、着替え時間などを労働時間と認めるべきだ、と述べられています。
 つまり、小田急電鉄の主張するように「着替え場所についての業務指示があったから着替え時間を労働時間と認めた」判決ではなく、むしろ“着替え場所についての業務指示がないにもかかわらず着替え時間を労働時間と認めた”判決なのです。本判決に則せば、小田急が着替え時間を労働時間と認めないという際に基準としている「着替え場所についての業務指示」は、着替え時間を労働時間として認めない理由にはならないのです。
 また、団体交渉の中では、①制服の始業前までの着用は義務付けられており、②制服を自宅に持ち帰ることは禁止されていないが、制服を着て通勤する社員・アルバイトはわずかであること、③制服は駅の各社員に用意されたロッカーに置かれていることが確認されています。これは上記判決に照らせば、着替え時間を労働時間と認める有力な証拠です。

小田急電鉄は着替え時間に賃金を支払え
 
 以上より、小田急電鉄の「着替え場所について業務指示を出していないから着替え時間は労働時間ではない」という主張は、間違ったものであるといえます。
 着替え時間の未払い問題は、小田急電鉄に限らず多くの企業に存在する問題です。公共性の高い鉄道事業を担う大企業、小田急電鉄には、こうした社会問題に真摯に向き合ってほしいと思います。学生ユニオンは、小田急電鉄が学生駅員の着替え時間に賃金を支払い、さらにこれまでの未払い分を全学生駅員に対して遡及的に支払うまで、この争議を継続していきます。

 小田急電鉄は、着替え時間に賃金を支払え。


首都圏学生ユニオン

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